ちらし寿司

妻君が誕生日で、夜にちらし寿司を食べることになった。

これはまあ、普通のことだ。スーパーか寿司屋でちらし寿司を買えばいい。

 

ただ、俺が作る、という事になった。

日々、俺の料理は全然うまくない、見た目がなんか貧乏くさい、味に奥行きがない

などと散々言われ続けていた。妻君は見た目が貧乏くさく味に奥行きがない料理が

圧倒的に嫌いらしく、田舎育ちなのもあるらしいが、

ご時世的に言うなら「ド派手」に作る。ド派手に作るために

下ごしらえやダシとりに命をかけた飯柱である。

 

実際は俺が下手というより妻君が作るものがうま過ぎるだけ、

と思っていたのもありカチンと来て、

「ちらし寿司くらいわかるよバカヤロー(©北野武)」と言い放ち

俺は近所のサミットへ出かけた。

 

 

出かけたはいいが、酢飯の作り方が全然わからない。しいたけの煮方が

わからない。あの玉子焼きのめっちゃ細くなったやつが自分の手から繰り出される

気がしない。

妻君がほれ見たことかと貧乏くさく味に奥行きがないちらし寿司を

みてバカにする顔が目に浮かぶ。はぁ、これだから階級の低い剣士は。

 

見てろよ。

 

スマホで「簡単」「ちらし寿司」と検索する。

検索ワードの段階で、もうマインドが負けている感じだ。

でもやるんだ。ド派手にちらし寿司を作るんだ。

ガチに酢飯を作らずとも「すし太郎」に派手めの具材をのせれば

およそいける事がわかった。

「すし太郎」を俺は探した。

 

人でごった返すサミットの店内。

生鮮食品を取り囲むように、調味料や乾物系の売り場が1列ずつ並んでいる。

疑問がまた浮かぶ。

 

すし太郎は、何のコーナーにあるのか。

 

ご飯に混ぜるから、、、ふりかけの列だろうか。。。。無い。

かんぴょうや椎茸が入っているから、、、乾物の列だろうか。。。無い。

あ、寿司の具だから、海苔んとこか。。。無い。

永谷園だから、春雨とかんとこか。。。無い。

味付けだから、醤油やソースのところ、、、も無い。

当然、佃煮や缶詰のところにも無い。

まさか餃子の皮みたいに、鮮魚コーナーの近くに、、、無い!

すし太郎がない。すし太郎がいない。

おーい。

 

あー、ちらし寿司どころか、すし太郎さえも探せないのか。

変にプライドもあるし、すし太郎はどこにあるんですか、などと店員さんにも

聞けやしない。

確実に笑われる。妻君に。飯柱に。

 

うなだれた俺の目の前に、ミツカンのマークがあった。

米酢、黒酢、梅酢、バルサミコ酢

酢の瓶がずらっと並ぶ端に、袋に入った「すし太郎」の四角いパックが

1個だけあった。

酢かよ。

ていうか、なんで瓶だらけのとこに紙のパックが1個だけあるんだよ!

俺はすし太郎は酢にジャンルされることを学んだ。

すし太郎は、酢。

 

帰って、俺はほぼ100%すし太郎のレシピ通りにちらし寿司を作った。

妻君には、まあ、なかなかじゃん、という感想を言ってもらえた。

子らもおいしいおいしいとおかわりした。

 

今後、ちらし寿司はお前に任すと妻君に言われた。嬉しかった。

もっと旨くなりたい。強くなりたい。

酢の呼吸 壱ノ型 すし太郎!

 

酢で呼吸。めっちゃむせそう。