桜を愛でにいく

桜が咲いてきた。

こんなご時世なので、夜に一人で見にいった。

帰りがけにいけるところで、人が少なめってことで、

谷中霊園の桜、いいじゃないのと思った。

上野駅で降りて、上野公園を北に抜けて谷中霊園通って、

夕焼けだんだん登って日暮里まで。霊園の、お墓の夜桜、なんかいいじゃない。

 

上野駅で缶ビールとチューハイ、魚肉ソーセージを買った。

さすがに上野公園は宴会は繰り広げられていないものの、

それなりに人がいた。みんなアホみたいに夜桜を撮っていた。

俺は性根がきっとよくないので、桜を撮っている自分に満足してんだろ?

とか思ってさっさと通り過ぎた。

撮りはしないが上野のギラギラした桜も、やっぱり素敵だ。

ちょっと気分をおかしくさせる。

 

北に歩いていくと芸大の建物がいくつもあって、この辺も桜がきれいだ。

芸術性あふれる夜の桜並木を、右手に缶チューハイ、左手に魚肉ソーセージで

景色に頷きながら歩くおじさん。

あーすんません、やっぱ俺の方が写真撮る人らよりあかんわと思う。

交番の横とかも通る。職質は、受けずに済んだ。

 

谷中霊園の南側の入り口の桜はとてもきれいだった。

これ、いいじゃないの。いよっ、春だねえと思う。

缶ビールを飲み、どんどん進む。

 

進むと街灯は少なくなっていき、さすがに墓地で、道も細くなっていく。

いつの間にか桜の木も柳の枝に変わっていく。

めっちゃ暗い。

誇張抜きに、ドラクエのダンジョンみたいに変な曲がり方の一方通行の道

だらけになり、行き止まりになったりする。

道の左右は墓石だらけ。というか墓石だけ。

誰もいない。風が冷たい。

俺はついに怖くなって、言った。

 

こええぇーーーーー!

 

俺の手持ちは歯形がついた魚肉ソーセージだけだ。

こんなんで戦えるか。こええマジこええ。お化けはソーセージ食うだろうか。

早く暗い道おわれ。

 

そう思いながら進んでいった先に、

なぜか狭めの広場があって、そこも暗がりだが1個ブランコがあって、

ブランコに、

おっさんが、座っていた。

そしておっさんが俺を見た瞬間、おっさんは立った。

 

こええええええええー!

 

なんでこんなとこにブランコあんだ。で、おっさんが座ってんだ。

俺はやっと悟った。なんで桜の名所なのに、人がいないのか。

谷中霊園は昼だ。夜に来るとこじゃねええええええ。

方向もわからないが、一目散に逃げた。

魚肉ソーセージをどこかで落とした。

 

たぶん、この夜、俺はおしっこをちょっとチビッたと思う。

俺みたいなやつは上野公園のミーハーな桜でもおとなしくみてるべきなんだ。

 

いくつになっても人は学べる。夜の墓場は、めちゃくちゃ怖い。