営業

来月からスーツを着なくなる。

営業マンではなくなるからだ。

 

もともと斜陽な業界ではあったが、

コロナやなんやかんやで営業自粛することで、

会社は売上が減ったが、皮肉なことに利益はちょっと増えた。

営業経費を全然使わなかったからだ。

 

もちろん数字に表れない未来に対するマーケット情報や

顧客の信頼度なんかもあるからこれが良い事とは一概に言えないが、

いかに我々は今まで無駄な金を使っていたか。

無駄な動きをしていたか。

化けの皮がはがれたともいえる。

経営者からしたらそりゃ思う。

営業活動、いらんやん、と。

 

そんなわけで、人事異動がドワーッと行われ、

俺は来月からお客さんのところに行かない内勤の仕事になる。

 

今まで世話になった顧客に挨拶にいく。

居なくなったら困る。本当に残念。君だからおたくから買ってたんだよ。

また戻ってくるんでしょ。

そういう声を幾つか頂いた。ありがたい。

本当は送別会をしたいけれど、コロナだからまたいずれね。

ありがたい。

 

けっこう前だけど重版出来!という出版業界のドラマで

制作と営業のせめぎ合いのちょっとしたシーンがあって、

ただ本を売ってるんじゃない。人が、人に売っているんだ。

とベテラン営業が言うシーンがあった。

もちろん本質的にはモノやサービスを売っているんだけど、

俺はこのセリフにとても救われた。誇りを持てた。

人が、人に、売っている。

俺が、あなたに、売っている。

 

お客の登山に付き合い、頂上まで缶ビールを山ほどリュックに詰めて登ったこともあった。

スナックで網タイツをかぶってエロティカセブンを歌ったこともあった。

得意先の部屋でお客に詰問され、大人なのにわんわん泣き、あげく、まあ泣き止めよと缶コーヒーをおごってもらうこともあった。

 

そんな営業やっとるから、もう要らないのだろうけど。

来週は、一人でうな重でも食いにいって、今後との折り合いをつけようと思う。